
Story
物語
「きみのギターには心がない」七沢奈那(24)は東京でバンドデビューを目指したが叶わなかった。「私の音わからない人とはできない」強がってみたものの深く傷ついて故郷の福井に戻ってきた。
実家の蕎麦屋。「…ここで働こうかな?」父倫太郎(56)はとりあわない。奈那が音楽をやることに反対だった父とのやりとりはぎくしゃくしたままだ。翌日の朝メモが残されていた。「ここでバイトしなさい」
坂の上の看板「…アデリラ?」そのとき、ハーモニカの音が聞こえてくる。どこか悲しげだ。けっして上手くはないがなぜか奈那の心に響く。誘われるように進むとそこは重複障がい者の施設だった。「無理…」奈那は職員の紀田洋平(37)との面談途中で逃げ出す。奇抜な恰好に嫌悪感を隠さない紀田も「なんだよ、あれ…無理だわ」
急いで玄関を出る奈那、突然飛び出してきた人物とぶつかり転倒する。目の前にはハーモニカを握りしめたまま倒れている赤星貴人(18)がいた。起き上がらせると笑顔で言う。「たんけん行こ…」「?」

翌日、二ノ宮周(25)の部屋に来た奈那。幼馴染で高校時代のバンド仲間だったが、病気で重度の弱視になっていた。「連絡くらいしろよ」「自分こそ」「俺は目が見えなくなったんだよ」「私は…将来が見えなくなった」
音を怖がって外に出たがらない周をようやく連れ出す。バンドを辞めた理由をどうしても聞きたがる周と、どうしても話したくない奈那。「うっさいなぁ」奈那が周の腕をふりはらう。転倒する周、そのときてんかんを発症し、救急車で運ばれる…
「障がい者を突き飛ばして、白杖を投げつけたと通報がありました」奈那のところに警官が来た。誤解だったがなぜか反省のために3カ月間のボランティア活動を言い渡される。
そして、そこはまた!?アデリラだった。園長の小松原希子(59)は独特のやわらかい口調で「七沢さん、音楽好き?」「…」「ちょうどよかった。難しく考えないで。音を楽しむ、音楽遊びクラブ。どお?」なんだか園長のペースにはまり、思わず「はい。」と言ってしまう。この小松原園長が死んだ母敬子と少なからぬ縁があったことは、奈那はまだ知らない。

生活支援員初日、入所してくる飯塚紗良(23)親子との面談に立ち会う。親がいつまで元気かわからないので自立させたいという。極度の人見知りなのか紗良はまだひとことも話していない。古いラジカセに触れると紗良が微かに唇を動かしているのに気づく。「もしかして歌が好き?」「…」

アデリラ音楽室。篤史(29)牛ちゃん(33)、雪乃(19)きっしゃん(44)真里子さん(38)貴人は逃げだしていていない。みんなてんでバラバラに太鼓をたたいたり、タンバリンを鳴らしたり、叫んだり…、はたまたいきなり抱きついてきたり。ただのカオスに途方にくれ、疲れ果てる奈那。 奈那は園長に「私には無理です。」「そうねえ…自分の声ばかりきかないで、もう少し耳を澄ませてみたら?」「?」園長は通りかかった貴人にお茶を入れてほしいと頼む。「貴人君に入れてもらうの。ここは介護を提供する場所じゃないから、家なの。」貴人は、指を湯呑みに入れてお茶の量を確認している。園長は「…美味しい」。「家…?」「みんなとともに生きて、ともに学んで、ともに成長する、ここはそういう家なの。楽しいわよ!」 紗良の部屋から紗良が歌っている声が聞こえてくる。「紗良ちゃんの声すっごい綺麗。音楽クラブに入って!」

親子面談の日。園内は賑わっている。貴人は水のペットボトルを陽にかざしている。「はれ?」貴人はペットボトルの水をかけて食べものを洗い出す。「あらいみずできれいにする」貴人はいつもこうしないと食べないという。
裏庭でハーモニカを吹いている貴人。母親は面会に来ていない。一度も来たことがないという。再婚相手に気を遣っているらしい。貴人は来ないとわかると脱走する。
奈那と貴人はサンドイッチを作っている。貴人には調理場にあるすべてが楽器で、リズムとビートに聞こえるらしい。食器で音を叩きながら踊り出す。 横並びに座ってサンドイッチをほおばる奈那と貴人。「洗わなくていいの?」「うん。ごみないから…おいしい」前の学校で食べ物にゴミを入れられたことを初めて話してくれた。
貴人と紗良が加わった音楽クラブ。 一同リズムをとっているが、バラバラで全然合わない。頭を抱える奈那、心が折れそうになり諦めかける。 でもメンバーたちはどうやら諦めてはいないみたいだ。なんだか楽しそうにリズムを刻んでいる。「自分の声ばかり聞かないで、もう少し耳を澄ませてみたら?」園長の声が甦る。歌い始める紗良。徐々にリズムが合っていく。奈那の指導にも熱が入っていく。
ある日の課外活動。音楽の練習を通じて少しずつ築いてきた貴人の信頼関係を壊してしまう事件が起きる。落ち込む奈那。自分の部屋に閉じ籠ったままの貴人。奈那は自分の話を始める。私の空っぽの音なんて誰にも響かなかった。だから音楽をやめた。私は簡単に諦めてしまったけど、貴人は絶対にハーモニカを諦めない。貴人のハーモニカを聴いたとき驚いた。貴人のハーモニカには“こころ”がある。」ドアを開けて出てくる貴人。「こころ?はーもにかのこころ?それはどこにあるの?」奈那、貴人の胸に手を当てる。「ここに」「ぼくのこころ、おかあさんのところへおくれる?」「送ろう」
七夕まつりの演奏会に参加するために、奈那たちの練習は熱を帯びる。貴人の母親にも聴いてほしい。何より彼らに、自分たちにもやれるんだ!と感じて欲しかった。
晴れの舞台…・。でも思っていたような成果は出せなかった。
みんなもっと上手くできるのに…
奈那は自分の力のなさを悔やみ、辞めると告げるが…

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